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RO.S.S 『Dark Cage』 第10話
2006/11/19(Sun)
さてさて、現在連載中のRO.S.S 『Dark Cage』の最新話です。物語も終盤に入ってきました。この先、二人の運命はいかに!?


まだこれまでの話を読んでいない方はこちらからどうぞ。


それでは、最新話をお楽しみください。


Dark Cage タイトルロゴ


RO.S.S 『Dark Cage』 第10話:心のキズ

幼い頃両親に捨てられた子供は、たくましく生きた。どんなに世間から蔑まれようと、どれほど酷い仕打ちを受けようと、彼は自分の生が続く限り生き続けた。彼は何事にも負けない生命力を持っていたはずだった。

だが、今彼はたった一人の女性のためにその生命力を失いつつあった。





遠くで鐘の鳴る音がする。最初はそれが気にもならないくらいぐったりとして寝ていたのだが、ふとマリーは目を覚ました。

「…」

頭がボーっとする。そのためか、しばらく自分が置かれている現状に気づかないまま時間をすごした。とにかくわかっていたのは、自分がどこかのベッドに寝かされていたということだけだった。だがしばらくしてはっとなり、自分の胸に手をやる。スカディによってつけられたそこにあるはずの切り傷は跡形もなく消えていた。

(治ってる…?)

と、その時ドアが開く音がした。

「…あら、起きていらしたんですね」

入ってきたのは見知らぬ少女だった。手にはお盆を持っていて、その上には水と薬、それからまだ温かいスープが一つ乗っていた。

「冷めないうちにどうぞ。お腹、すいていらっしゃるでしょう?」
「え、ええ、ありがとう」

マリーは少女からお盆を受け取る。

「あなたは?」
「クレア、クレア=ウォルターです」

少女は、そう名乗った。

「今センセーを呼んできます」

そういうと、少女は部屋から出て行き、誰かの名前を呼んだ。
しばらくして、今度は白衣を着た男が部屋に入ってくる。

「やっと起きたか。一時はどうなることかと思ったぞ」

男はそういいながら、ドアを閉め、そして懐からタバコを取り出す。

「病み上がりのお前さんにゃ悪いが、一本だけ吸わせてくれ」

以前、一度吐いたことのあるこのセリフ。マリーはその時はここにはいなかったが、それとは別に、彼女にはこの男に見覚えがあるような気がした。

「あなたは…医者なの?」

男はタバコをふかしながら軽く頷いた。

「ラルフ=ウォルター。この街で3年前から開業医をやってる」

その名前を聞いた瞬間、マリーは彼のことを思い出した。

「ラルフ=ウォルターって…まさか!?」
「…」
「6年前の事件で検死と刻印の研究を指揮していた、あの…」
「やめてくれ、もう昔の話だ。それに…」

ラルフの表情が曇る。タバコの煙を目一杯吐き出し、灰皿に力強く押し付けた。

「今の俺ぁ軍が嫌いでね」

ラルフは昔、城で科学班の主任として働いていたのだ。だが、どういうわけか数年前に辞職し、今はこの街で開業医をしているというわけだ。

そして彼が城を出たのはあの事件が起こってしばらくしてからであった。

「どうして…城を出たの?」
「言ったはずだ。昔の話だってな」

ラルフはそれ以上語ろうとはしなかった。マリーも助けてもらった手前、あまり深く聞くのはよくない気がした。

「さっきも言ったが、俺は軍が嫌いだ。城を抜けたのも、そのせいさ。あんたが軍の人間だってことも、その格好や胸元の騎士団章を見ればわかる」
「じゃあ、どうして私を助けてくれたの…?」

おそらく、彼女を助けたのはラルフなのは間違いない。だが、それならなぜ明らかに軍人であるとわかっているマリーのことを助けたりなどしたのか。

ラルフの答えはごく簡単なものだった。

「怪我人助けんのが俺の仕事だ。怪我人に軍も糞も関係ねぇよ」
「…ありがとう」
「礼ならクレアに言いな。俺の薬だけじゃ、お前さんの傷は治せなかった。お前さんの胸のキズを治したのはあの子の魔術治療だ」
「さっきの子ね。でも、あなたに娘がいるなんて知らなかったわ」

彼女の言葉に、ラルフは一瞬動きを止めた。

「…あの子は俺の子じゃない」
「え…でも、さっきクレア=ウォルターって…」
「あいつ…」

一度潰したタバコを再び手にとり、また口へ運ぶ。そして両目を閉じて天井を見上げた。
ラルフは小さくため息をついた。

「確かに、俺はあいつのことを自分の子供のように思ってはいるがな。だが、あの子と俺には、血のつながりはねぇ」
「養子ってこと…?」
「似てはいるが、実際はそんな生優しいもんじゃない」

ラルフの表情が険しくなる。

「両親に捨てられたんだ。しかも、その捨てられ方が尋常じゃなかった」

見ると、微かに彼の腕が震えていた。

「あの子は幼い頃親に虐待を受けていた。回りもそれを知りつつ、見てみぬふりをしていた。そしてある日、暴行がエスカレートし、彼女は虐待の途中で意識を失った。彼女が死んだと思った両親はあろうことか、彼女を村の外へ捨てた。俺はその時たまたまその村の近くまで薬草を取りにいった帰り、山の中でボロボロになって倒れている彼女を見つけたんだ。すぐに手術をして、彼女は何とか一命を取りとめた。体中の傷も、知り合いの聖職者に頼んでほぼ完治したよ。だが…」
「だが…?」
「目に見える傷は治っても、あいつの中につけられた傷、つまり心の傷はそう簡単には治らん。怪我が治った後も、しばらくはずっとベッドの中に引きこもって何も話そうとはしなかった。よっぽど両親の虐待に恐怖を感じていたんだろうな」

マリーはなんだか悲しくなった。話の内容もそうなのだが、境遇は違うとはいえ、同様に両親からひどい扱いを受けた人物を知っているだけに余計にそう感じた。

「まあ、その話はもういい。それより、一体何があった?いや…」

ラルフは首を小さく横に振った。

「わざわざ言わなくてもいい。大体のことは予想がつく」
「え…?」
「俺がお前さんを見つけたときは、お前さんとディオの二人だけだったからな」

途端にマリーはディオのことを思い出した。

「どうしてあなたがあの子の名前を…」
「…あの子達があの場所に行く前、俺がここで少しだけ面倒をみた」
「それで、あの子はどうなったの!?」
「…」

ラルフは黙ったままだった。マリーに不安がよぎる。

「一応、命に別状はない。腹の傷も幸い急所は外れてる。傷も薬とクレアの魔術でなんとかなった」

マリーの安堵のため息が漏れる。しかし、ラルフの表情はなぜか厳しい。

「だが…あれを『生きている』といえるのかどうか、俺にはわからない」
「え…どういうことなの!?」
「…ついてこい」

そういうとラルフは部屋を出る。マリーも急いでベッドから外に出て、彼の後を追う。

彼女が寝ていた部屋から少し離れた部屋の前で、ラルフは足を止めた。そして、そっとドアを開け、中に入る。マリーもそれに続く。ディオは確かにその部屋のベッドに寝かされていた。ラルフは、彼のほうを指差し、振り返らずにマリーに向けて言った。

「…見てみろ」

マリーが恐る恐る覗き込む。
彼女は絶句した。

「なに…これ…」
「見ての通りだ」

彼は目を開けたまま、まるで人形のように横たわっていた。瞳からは光が消え、呼吸をしているかどうかすらわからないほどピクリとも動かない。

「どうなってるの…?」

声が震えていた。ラルフは少しためらいを見せながらも、静かに説明する。

「さっきも言った通り、外傷に関してはほぼ完治した。内臓のほうも手術やクレアの治療のおかげでほぼ治ってる。だが、今この子は精神的に深い傷を負ってる。わかるか?さっきも言ったが、外の傷は直せても内側の傷、心の傷は俺やクレアにも治せない」

ラルフの説明を、マリーはただ呆然と聞いていた。

「これが『奴』の仕業なのか、それともこの子自身が引き起こしたものなのかはわからん。だが、どちらにせよ、俺達にできることはない。しいてあげれば、待つことだけだ」

その瞬間、マリーがラルフの胸倉をつかんだ。そしてキッとラルフを睨みつける。

「今『奴』って言ったわね。あなた、全部知ってたの!?」
「全部ってわけじゃない」
「同じようなものでしょ、そこまで知ってるなら!!そうよ、あの事件の捜査をしていたあなたなら、私達以上にあの化け物のこと、知ってたはずなのに…」
「…」
「あのスカディって化け物のことも…刻印のことも…プロジェクトD.C.のことだって、全部知ってたんでしょう!?」
「…ああ」
「だったらなんで…なんであの子達をとめてくれなかったのよ!?あなたがとめてくれてれば、こんなことには…っ!!」

マリーは泣いていた。だが、ラルフは整然とした態度で言い放つ。

「俺にはあの子達を止める理由がない」
「どうしてっ!?あなたのせいで、この子はこんな姿になって…その上あの子までっ!!」
「俺が引きとめようがとめまいが、あの女の子、キリカにとってはどっちもいい結果にはならなかった」
「なんでよ!?」
「お前さん達は、あの子を捕らえて処刑するために二人を追っていたんじゃないのか!!」

ラルフが怒鳴った。マリーは思わず彼の胸元から手を離した。

「そ、それは…でも、私はなんとかしてあの子を…」
「確かに、あのまま二人を送り出せば、こうなるんじゃないかと思ってはいた。だが、俺がもし引き止めたとしても、この子達は無理やりにでもあの場所に行っただろう。なぜかわかるか?」
「…」
「彼女、キリカにとっては、どちらに転んでも待っている結末は決して喜べるようなものじゃない。それは彼女自身、わかっていたはずだ。だがそんな彼女をこの子だけは…ディオだけは信じていた。死を宣告された彼女が生き延びることができる道を必死に探そうとしていた。そんな奴らを止める権利は俺にはない。もちろん、軍の命令に従うことしかできないお前さんにもだ」

マリーは何も言い返せなかった。
彼女は軍、そして騎士団に誇りを持っていた。だからこそ騎士団の決定は絶対であるし、それがたとえ間違っているとわかっても、任務のためなら自分を押し殺して遂行してきた。ヴェルナーの言うことが彼女にとってはすべてだったのだ。

だが…彼女のその考え方は、彼女が心配していた二人にとって悪い方向にしか働かなかったのだ。

「それに、俺があの子達を止めなかったのは他に大きな理由がある」
「理由…?」
「仮に、奴が…破壊の女神の名をつけられたあのスカディという悪魔が蘇ったとしても…この子ならなんとか活路を見出す。そう思ったからだ」
「でも、この子はもう…」

魔術ですら、彼の心の傷は癒えない。このまま一生目覚めないかもしれないのだ。
だが、ラルフはきっぱりとした口調で言った。

「この子が目覚めるとしたら…自力でそうなるしかない。他の誰の意志でもない、自分の意志で、だ」
「自分の意志…」
「この子は自分の意志で彼女を城の地下牢から逃がし、彼女と共にここまでたどり着き、そして運命の交錯するあの場所へ向かっていった。そんなやつがこのまま眠ったままでいるわけがない」
「で、でも…」

まぶたを震わせながら、マリーは涙声でラルフを見上げる。しかし、ラルフは彼女のすがるような視線をあえて振り払った。

「お前さんはどうなんだ。いつまでもそうやって誰かに頼るままに生きるのか?」
「…っ!!」
「他人にアドバイスを求めることは決して悪いことじゃない。時には誰かを頼ることも大切だ。けどな…」

ラルフは彼女に背を向け、ゆっくりとドアの方に向かって歩きだした。そして部屋を出てドアを閉める直前に、彼女の方を振り向かないままに付け加える。

「最後に決めんのは…自分自身だ」

ラルフはそのままドアを閉めた。
残されたマリーはしばらくそのまま動かずにただうつむいていたが、やがて立ち上がり、ベッドで目を開けたまま光のうせた瞳を見せるディオの手を握り、声を押し殺して泣いた。




光も音もない、無限に広がる闇の空間。
他に誰もおらず、人だけでなく、いかなる生物も、非生物すら、その空間には存在しえなかった。
彼はただ、その中をまるで水面に浮いているような感覚で彷徨っていた。

何も見えず、何も聞こえない空間で、思考だけが彼の頭の中で微かに働く。

(俺は…)

スカディが放った最後の言葉が彼の脳裏から離れない。

『…この卑怯者』

ディオの中に、これまでにないほどの罪悪感が生まれる。

今まで彼は、自分と似た過去、境遇を持つ彼女のために何とかしてやりたいと必死になってここまでたどり着いた。どうあがいても待ち受けているのは死しかなかったも同然の彼女が何とかして生き延びることのできる方法を探すために、彼自身最大限の努力を惜しまなかった。それは一重に、彼女を信じていたからに違いない。だが…

(あいつを一番裏切ったのは…俺自身じゃないか…ッ!!)

両親に捨てられたあの日、揺れる馬車の中で彼は目の前の少女の視線から逃げた。すがるように、助けを求めるように見つめた彼女から目をそらした。その時はどうせ奴隷市場にでもかけられて散々こきつかわれる日々が待っているのだろうと思っていたが、馬車の行き先はそんな生ぬるい場所ではなく、あの実験施設だった。本来なら、彼も実験の被験者としてその施設で殺される運命にあったのだ。だが、彼はその運命から外れた。その時は自分が生きることに必死で、彼女の存在なんて気にもとめていなかったが、今から思い返せば馬車を抜けだすとき、後ろ姿を恨めしそうに見つめる彼女の姿があまりにも容易に想像できてしまう。彼女を裏切った自分が彼女を信じるなどと言っていたことに、いまさらながら憤慨し、絶望した。

(俺には…もうあの子のことを信じる資格なんてない)

ディオは目を閉じる。目を閉じても閉じなくてもそこは真っ暗な空間なのだが、目を閉じた途端、これまでに起こった出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。

(そういや昔ハルエラ様が言ってたな…人間死ぬ直前には今までの出来事が目の前を通り過ぎていくように見えるって…)

彼は死を覚悟した。そうなるべきだとさえ思った。

しかし、その時今まで流れるように通り過ぎていた過去の映像が突然止まった。
その場面はまだディオが城でハルエラに仕え始めて間もない頃のものだった。確か、季節は秋で、涼しい風が吹いていた記憶がある。

(…?)

ディオは目の前でスライドのように映し出されているその光景を凝視した。ハルエラがディオをつれて、城の中庭を散歩しているシーンだ。

今まで静寂に包まれていたその空間にその日の二人の会話が聞こえてくる。

『ディオ、見てごらんなさい。トンボが飛んでいますよ』

ハルエラが指をさすと、まだ少年であったディオはその指先に目をやる。赤いトンボが二匹、夕焼け空をスイスイと飛んでいた。

そのトンボたちをまぶしそうに見ながら、ハルエラは少し寂しげな表情になった。
『あのトンボたちも、産卵を終えればその一生が終わり、やがて死を迎えるのですね』

ディオはそんなハルエラの横顔を下から見上げた。決して若いといえるような歳ではないハルエラだったが、それでも十分美しい彼女の横顔は夕焼けに照らしだされてくっきりとした影を作っていた。

彼女はディオのほうに向き直り、しゃがんで彼の目線にあわせてからしっかりと肩を抱いて言った。

『ディオ、あのトンボたちは自分の子孫を残すために命をかけて卵を産むのよ。自分には何の利益もない、いわば死の儀式ともいえるわね。それでもトンボたちは一生懸命に生きている。それは人間も同じです』

幼いディオはキョトンとしていた。ハルエラは再び笑顔を見せた。

『今のあなたにはまだわからないかもしれないわね。ですが、いつかきっとわかる日がきます。善人だけでなく、悪人と呼ばれる人たちですら毎日を生きることに必死なんです。確かに罪を犯すことはよくありません。ですが、悪人と呼ばれる人たちにも、その人たちなりにこの世の中を一生懸命生きているんです。だから、人を見かけで判断してはいけません。』

ハルエラはディオの頭を軽く撫でてやる。ディオはくすぐったかったのか、その場でもだえるが、ハルエラのその撫で方が嫌いではなかった。

『いいですか、ディオ。あなたはあなたの信じる道を貫きなさい。それが周りからどういわれようと、あなた自身の人生なのですから』

映像はそこで終わった。

(…)

キリカを地下牢から連れ出す前にも、ハルエラは同じようなことを言っていた。

『…自分自身を信じなさい。たとえどんな道であっても、自分が信じる道を行くのです』

(俺の信じる道…)

ディオの心臓が、ドクンと鼓動した。とまっていた時が再びゆっくりと動き出そうとしている。

(俺の信じた道って…何だ?)

ディオはゆっくりと右手をかざした。
色々な声や映像がまた彼の目の前に飛び込んできた。

本当の母親よりも優しかったハルエラの笑顔が。
兄妹同然で共に城で暮らしてきたリエルのちょっと怒った表情が。
聖騎士団の入団テストに合格したときに一緒に喜んでくれたマリーの声が。
クレアに呆れられながら、タバコをおいしそうに吸っているラルフの煙の匂いが。

そして…

あの日、洞窟で彼の腕を噛みながら涙を見せた彼女の泣き顔が。

(キリカ……ッ!!)

彼は映像の中の彼女に力一杯手を伸ばす。実体のない幻影を、彼は確かにその手でしっかりとつかんだ。

一筋の光が差し込み、彼を取り巻いていた暗闇が晴れていく…。




気がつくと、マリーは居間のソファで眠っていた。

あの後、ディオの寝ている部屋から居間に移り、ラルフやクレアとともに食事を取った。もっとも彼女に関してはほとんど喉を通らず、食事中も一言も口をきかなかった。その後、ラルフやクレアは仕事に戻ったが、彼女はただ一人ソファにじっと座っていた。何かを考えていたのかもしれない。だが、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

と、そこへラルフが入ってくる。

「起きたか」
「ごめんなさい、私眠ってたみたいで…」
「お前さんも病み上がりなんだ。無理はしなくていい」

ラルフはキッチンのほうに歩いていったかと思うと、コーヒーカップを二つ持って戻ってきた。そしてそのうちの一つをマリーの前に置いた。

マリーは受け取ったカップを手にとり、口へと運ぶ。痛いほど熱いコーヒーだった。

「ドクター」
「何だ?」
「あの子のことだけど…」
「ディオか?」

マリーは首を横に振った。

「ううん、クレアのほう」
「あいつがどうかしたのか?」
「あの子、両親に捨てられて、ここにきてからもずっとふさぎこんでたのよね?」

堅い表情で無言のまま頷くラルフ。彼としても、あまりそのことは思い出したくない過去なのだろう。

「その後あの子、どうやって立ち直ったの?」
「…聞いてどうする?」
「別に。ただ知りたいだけ」

しばらく静寂が流れた。だが、ラルフは手に持っていたカップを机において自分もソファに座り、宙を見上げて口を開いた。

「俺は特に何もしてない。ここにきてから数週間したある日、あいつのほうから俺に礼を言ってきた」
「何もって…励ましたりとかは?」
「そりゃあそのくらいのことは多少はしたがな。だが、それ以外のことはほとんどしてねぇ。あいつは自分自身の力で過去と決別したんだ。あの日、あいつは俺に言った。『ずっとここにいてもいいんですか…?』ってな」
「…」
「あいつには帰る場所がない。怪我が治って、心の傷がいえたとしても、もう戻る場所がなかったんだ。俺はそのときになって初めて、あいつの人生に直接手を貸した。あいつが自分で考えて、自分で決めたことだ。その日から、あいつは俺の家族になり、ここで働き出したのさ」
「そうだったのね…」

コーヒーの液面に自分の顔がうっすらと映る。ラルフやクレア、あるいはディオ達に比べて、自分はなんとちっぽけで情けない人間なのだろう。マリーは自分が少し嫌になった。

そんな心情を察したのか、ラルフはそっと付け加える。

「自分の意志次第じゃ、過去なんてどうにでもなるさ。今までがダメだったんなら、これからうまくいくようにやればいい」

そういって立ち上がり、仕事に戻ろうと診察室に向かいかけたその時だった。
不意に廊下側のドアが開いた。

マリーは背後でラルフの足が止まるのを感じた。彼女もドアの方を振り向く。

立っていた。あの魂が抜け落ちて人形のように横たわっていた、彼が。

「ディオ…」

ガタンと音を立てて、マリーはソファからはじけるように起き上がり、そしてドアのところで静かに立ったままのディオに駆け寄った。

「ディオ!!」

寝巻き姿の彼の傍に寄り、そして思いっきり抱きしめる。懐かしい匂いがした。

「よかった…目覚めてくれて…」
「マリ姉…心配かけてごめん」

マリーは力強く否定した。

「あなたが目覚めてくれただけで嬉しいの」

しばらくの間、二人は抱き合ったままでいた。しかし、ディオのほうがマリーを自分の体から離し、そしてマリーに告げた。

「マリ姉…俺いかなきゃ」
「行くって、どこに…」

そういいかけて、ハッとなった。ディオは彼女に背を向け、部屋を出ようとする。彼女は何か言いたげな表情を見せた。しかし、言葉になってそれが出てこない。

そしてそんなマリーの眼前を、ラルフの大きな手が遮った。

「ドクター…?」
「俺が言ったこと、もう忘れたのか?」

ラルフはそのままディオの背中に向かって言った。

「ディオ」
「…」
「…行くんだろ、彼女のところに」
「…はい」

ディオは静かに答えた。だが、その口調にはどことなしか力強さがあった。
ラルフは安心した。そしてわざと声を張り上げて続けた。

「だったら、ちゃんと準備くらいしてけ!!『準備不足で助けられませんでした』なんていいやがったら承知しねぇぞ」
「はい」

それだけ言って、ディオは自分の部屋に戻っていった。

立ち尽くすマリーの肩を、ラルフがポンと叩く。

「見たか?あいつの目。あれならもう大丈夫だ」

ディオの目は光を取り戻していた。

「あとはお前さん次第だ。お前さんがどうするかはお前さんが決めればいいさ」

そういって、ラルフも仕事場に戻っていった。

一人残ったマリーはしばらくそのままの態勢で何かを考えていた。だが、やがて彼女も部屋を後にする。

そのときの彼女の表情は、何かを決意したような力強いものだった。

(第11話に続く)





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