>
スポンサーサイト
--/--/--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
この記事のURL | スポンサー広告 | ▲ top
亡人の雨 後編
2006/03/13(Mon)
亡人の雨 後編


Thanks!
イラスト:ニラぴ~氏


遠くで何かが聞こえる。だが、視界は真っ暗で何も見えない。
聴覚以外の感覚がすべて麻痺してしまったかのようだ。
段々とその音が大きくなる。理由はわからないが、なぜかその音の正体に不安を覚えずにはいられない。だが、もがいてももがいても一向に体は動かない。
そして、その音が止まり、突如視覚が戻る。目の前に立っていたのは、血塗られたレイピアを掲げたミリア…。
(…!!)
次の瞬間、言葉にならない苦痛が全身を襲った。
だんだんと意識が遠のいていく。





「お客さん!」

聞いたことのある声が近くでした。そしてドンドンと何かを叩く音が聞こえる。

「お客さん!いい加減に起きたらどうだい!?」

イスラはうっすらと目をあけた。ベッドのシーツと部屋の壁が見える。

(夢…?)

体を起こして辺りを見回すとちゃんと自分の部屋にいた。少し頭痛がする。二日酔い…ではなさそうだ。
イスラが頭を軽く抑えつつドアを開けると、その向こう側には女将が立っていた。

「まったく、やっと起きたのかい?」
「え…、あ…」

まだ頭がぼんやりとしていて、状況がうまく飲み込めていない。
それにしても、変な夢だった。ミリアが彼の体に向けてレイピアを突き刺した。あのときの彼女の表情は今までに見たことがないほど冷たかった。
そういえば…昨日ミリアが部屋に戻った途端、意識が朦朧とした。それ以降の記憶を思い出そうとしても出てこない。どうやら眠ってしまったようだが、一体何があったのだろう。
そうだ、とりあえずミリア隊長と合流しよう、そう思ってイスラは女将に尋ねた。

「あの…ミリア隊長は…?」

彼の問いかけに、女将はあきれた顔で言った。

「もう一人の女の人かい?あんたがあまりにも起きるの遅いから、もう出かけちまったよ」
「出かけたって…どこに?」
「例の化け物んとこさ」

その瞬間、今自分が置かれている状況がようやく理解できた。

「って、今何時ですか!?」
「もう8時を回ってるよ」

どうやら寝過ごしたらしい。
だが、それはともかく、一体どういうことだろう。いくらイスラが新米で、しかも寝過ごしたからといって、隊長であるミリアが部下をおいて一人で調査にいくなどということは普通ありえない。第一そんなことをしたら上司に何を言われるかわかったもんじゃない。
なのに一人で出かけたということは…何か事情があるのだろうか。
昨日の件も気になる。もしかしたら、ミリアが自分のグラスに睡眠薬か何かを混ぜたんじゃないだろうか。その理由はわからないが、それを確かめるためにも追いかけなくてはならない。

「隊長はいつここを出ましたかっ!?」
「そうだねぇ、ちょうど2時間くらい前だったかしら」
「とにかく、俺もあとを追います!」

イスラはすばやく着替え、自分の荷物を担ぎ、腰に剣を携えて宿屋を飛び出した。
既に辺りは明るくはなっているが、空はどんよりと曇っており、風も少し吹いている。そういえば、昨日女将が雨になるっていってたな、などと思いつつ、イスラは教えてもらった方へと走り出した。
なんだか嫌な予感がする。何かが起こりそうな、それが例の怪物とかかわりがあるのかはわからないが。





街を東に抜け、さらに洞窟を抜けた先には、湿原が広がっていた。大きな沼らしきものも見える。イスラは丘の上から湿原全体に響きわたる声で叫んだ。

「隊長----!!どこにいるんですか---!!」

イスラの叫び声はむなしくこだまするばかりで、ミリアからの返事はない。イスラにますます不安が募る。そして仕方なく、湿原へと足を踏み入れる。
と、そのときポツンとつめたいものがあたった。

「やばい、もう降ってきちまった…」

イスラは早足で歩き始める。ただでさえ足場が悪いのに、雨が降れば湿原ではもっと足場が悪くなる。早くミリアと合流しなければ…そう思って、時々声をはりあげながら前に進むが、出くわすのはモンスターばかりで、ミリアはどこにも見当たらなかった。

(おかしいな…先に出たなら必ずいると思うんだけど…)

焦りが一層ひどくなる。イスラは雨の中をさらに進んだ。もう全身が完全にぬれきっていて、一つ一つの動作をするのにも重い。

すると、前方に人影のようなものが見えた。よく見ると、兵士の姿だ。ミリアに間違いない。

「隊長!」

イスラは少し安心して、その人影のほうへと走り出した。

「隊長、置いてくなんてひどいじゃ……!?」

途中でイスラは足を止めた。
確かにそこにたっていたのはミリアだった。だが、奥にもう一人、誰かがいる。

そして……貫いていた。大きな爪がミリアの胸を…

「ミリア隊長!?」

イスラはとっさに剣を抜いた。すると、その声に反応したのか、ミリアがイスラのほうを振り返る。

「イス…ラ君?」

ミリアの顔からは血の気が引いていた。

「思ったより…早くきてしまった…のね」

それだけいうと、ミリアはその場に崩れ落ちた。そして、ミリアの向こうにいた人影が姿を現す。
…いや、正確には人ではない。確かに人間に似た姿をしているが、肌は緑で背中には大きな、しかしところどころ破れた翼があった。その大きな爪はミリアの血で赤く染まり、鋭い牙がむき出しになっている。



 変異竜





(竜の翼!?だけど…あれはどうみても人間の姿じゃないか!!)
「イスラ…君。逃げな…さい。あなたじゃ…勝てないわ」

倒れたまま、ミリアが必死に声をはりあげるが、イスラは退かなかった。それどころか、剣を構えて無意識のうちに飛び出していた。ミリアをこんな目にあわせたドラゴンを許せなかった。

「この野郎ッ!!」

イスラは剣をドラゴンの頭めがけて振り下ろした。だが、ドラゴンはその大きな爪でそれを防ぎ、翼でイスラを打ちつける。

「ぐあっ!!」

イスラは数メートルほど後ろに弾き飛ばされ、地面に激しく叩きつけられた。

「くっ…」

倒れているイスラを見て、ドラゴンは大きく息を吸い込んだ。

(ヤバイ!)

咄嗟に体をそらせ、横へと転がる。雨のせいで地面はさらにぬかるんで泥だらけになるが、そんなことには構っていられない。その直後、ドラゴンの炎のブレスがさっきまでイスラが倒れていた地面を焼き尽くした。

(あんなもの食らったら、ひとたまりもないぞ…)

イスラは再び剣を構える。

「ダメよ、イス…ラ君!お願いだから…逃げて…!!」

ミリアがとめる声が聞こえるが、イスラは逃げる気にはなれなかった。なぜミリアが自分をおいて先にここへやってきたのかはわからないが、自分の隊長が倒れているのを放って逃げるほどイスラは薄情ではない。たとえ昨日の夜、ミリアが自分に何かをしたのだとしても。

だが、ドラゴンは今度は自らイスラに対して攻撃を仕掛ける。イスラはそれを剣で受けようとするが、大きな爪の圧力を抑えきることはできず、再び弾き飛ばされた。

「がはっ!」

イスラは一瞬気を失いそうになる。だが何とかこらえて意識を保つ。しかし、ドラゴンは少しずつ彼のほうへ近づいてきた。必死に動こうとするが、体が言うことをきかない。

(まずい…!)

彼の目の前までやってきたドラゴンが再度腕を振り上げた。
イスラは思わず目を閉じた。





その直後、大きな叫び声が轟いた。
イスラの声ではなかった。

恐る恐る彼が目を開けてみると、ドラゴンの胸に背中側からレイピアが突き刺さっていた。そしてその後ろには瀕死であるはずのミリアがレイピアの柄を握っていた。

「隊長…」

ドラゴンがその場に倒れ、それと同時にミリアも再び倒れこむ。

「隊長!」

イスラは力を振り絞り、ミリアの元へ駆け寄った。

「しっかりしてください!」

倒れたミリアからはまだ血が流れ続けている。この傷では、もう長くはもたないかもしれない。

「あーあ…結局、殺して…しまったわね」

ミリアの意外な言葉にイスラは驚いた。

「え…?」
「ホントは…殺したくなかった…のよね」

ミリアは視線をドラゴンのほうへと向けた。ドラゴンは心臓をひとつきにされていて、既に息絶えていた。

「どういうことです?こいつが例の化け物なんでしょう!?俺たち、化け物を退治したんですよ!」
「…そうね。でも…」

ミリアの声にだんだん力がなくなっていった。

「隊長、しっかりしてください!俺が街まで運びますから!」

そういって背負おうとするイスラをミリアが制した。

「いいのよ、私はここで」
「何を言ってるんですか!街までいけばきっと医者が…」
「いいの、イスラ君」

こんな状況で、ミリアは笑顔を見せた。

「私は…最後にこの人と一緒に死ねる…から…」

そして、ミリアは目を閉じた。

「隊長…?どういうことなんです、答えてください!隊長ーーーーーーー!!!」

イスラがいくら呼びかけても、ミリアはもう答えることはなかった。




数日後、イスラは騎士団に戻り、ミリアの部屋のドアを開けた。
部屋に来る途中、廊下を歩いているとどこからか兵士たちの声が聞こえた。

「おい、第××小隊の隊長の件、知ってるか?」
「例の化け物騒ぎだろ?何でも、騎士団にきた調査依頼をみて、隊長自ら調査の志願をしたらしいな」
「あの隊長には婚約者がいて、あの場所で行方不明になってたんだとさ。モンスターに殺されたって噂も…」
「それで敵討ちってわけか。結局死んじまったみたいだけど…」

イスラはその兵士たちの声を黙って聞いていた。拳を強く握り締める。

(違う…!敵討ちなんて、そんな単純なものじゃない)

あとで調べたところ、ミリアの婚約者は確かに行方不明になっているが、それは化け物が現れる少し前の話だ。それに、死に際にミリアが残したあの言葉が頭を離れなかった。

『私は…最後にこの人と一緒に死ねる…から…』

もしかして…
イスラはある考えが浮かんだ。

あの変異竜が、その婚約者だったのではないだろうか。
確かにあれはドラゴンであったが、人間の面影もはっきりと残っていた。どうやってあの姿になったのかはわからないが、ミリアがそれに気づいたのだとしたら…あの時のミリアの言葉の意味がわかる気がする。おそらくイスラに逃げろといったのも、イスラの身を心配すると同時に、愛する者のことを思ってのことだろう。

ある種の罪悪感に襲われる。もし自分があの時行っていなければ、ミリアはドラゴン、いや、婚約者を殺さずにすんだのかもしれない。あるいはミリアの警告通り、あの時逃げ出していれば…。どちらにせよ、ミリアはおそらく死んでいたのだろうが。

だが、まだ疑問は残る。まさか実際にドラゴンを見る前から、そのドラゴンが婚約者であることをミリアが知っていたはずはない。では、なぜ一人で調査に出かけたのだろうか。

(まさか…)

ミリアは、初めから死ぬつもりでいたんじゃないだろうか。
騎士団にきた依頼をみて、行方不明の婚約者を探しにきたのは間違いないだろうが、もしそれで見つからなかったら、そのまま命を絶つつもりだったのかもしれない。
婚約者が行方不明となり、その婚約者が消えたあの場所で死ねば一緒になれると思ったのだろうか。前日まではちっともそんな素振りは見せていなかったが、考えられない話ではない。
そういえば、前日の夜にミリアが部屋をでた途端、猛烈な睡魔に襲われた。おそらく、隙をみて睡眠薬を入れたのだろう。おかげで寝過ごすことになってしまい、結果的にああなってしまった。

イスラはミリアの部屋で例の怪物騒動の件について彼女の代わりに報告書を作成した。

変異竜(ミュータントドラゴン)と彼女の関係については、彼は一言も書かなかった。あくまでもイスラの推測の域を出ないし、証拠もない。それに、このことは黙っておいたほうがいいような気がした。下手に他人を介入させたくない。

イスラはミリアの机の引き出しをあけた。封をきったタバコのケースが一箱だけ置いてあった。中にはタバコが数本と、ライターが入っていた。ミリアがよく吸っていたものだ。
イスラはそれを手に取り、自分のポケットにしまって部屋を後にした。

もうすぐ後任の部隊長がやってくる。騎士団にとって、ミリアの死は一兵士の死でしかない。だが、イスラにとっては…かけがえのない人を失ってしまった気がする。

報告書を出し終え、イスラは外へ出る。今日はあの時と同じように、首都でも雨が降っていた。道行く人は色とりどりの傘をさし、中には二人で一つの傘の下なカップルもいた。

だが、彼は何もささずに雨の中へと踏み出した。周りの人間は不思議そうに彼のことを一瞬見るが、すぐにまた歩き始める。

空を見上げるイスラ。やはりあの時と同じようにどんよりとした雲が首都全体を覆っている。風はないが、やけに雨が冷たく感じられた。

イスラはポケットからタバコのケースをつかみ、中からライターとタバコを一本取り出した。今まで彼はタバコなどまったく吸ったこともないし、むしろ嫌いなはずなのだが、彼はそれに火をつけ、口に加える。
そしてタバコをくわえたまま、再び空を見上げた。冷たい雨が彼の顔をうちつけるが、そんなことはお構いなしだ。

ふと、あの死に際のときのような笑顔をミリアがどこかで遠くで見せたように感じた。




だから、イスラも同じように笑ってやった。


空を見上げるイスラ

 


[『亡人の雨』 完]
スポンサーサイト
この記事のURL | RO Short Story | CM(0) | TB(0) | ▲ top
<<レース論 考察その1 -縁の下の力持ち- | メイン | 亡人の雨 前編>>
コメント
コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する


▲ top
トラックバック
トラックバックURL
→http://fily02.blog57.fc2.com/tb.php/21-a23ee48a

| メイン |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。